
ある日、猿の将軍ハヌマーンは、プレア・リアム王から大切な役目を授かりました。矢で傷ついた弟王子プレア・リークを治すため、薬の木を探してくるようにというのです。
王さまは、その薬の木の名が「チョン・クロン・スワ」=「猿の木」であることを、あえてハヌマーンに伝えませんでした。猿であるハヌマーンが名前を聞いてからかわれたと思い、気落ちしてしまわないようにという気づかいからでした。

名前を知らされないまま、ハヌマーンは見当をつけて薬の木を探し、三度にわたって王のもとへ持ち帰りました。しかし、どれも求めていた木ではありません。

業を煮やしたハヌマーンは、いっそのことトロンバット山の上半分をまるごと切り取り、王さま自身に探してもらうことにしました。すると王さまはあっさりと「チョン・クロン・スワ」を見つけ出したのです。
名前を知らされていなかったことに気づいたハヌマーンは、「最初から教えてくれれば、山の半分も持ってくる必要はなかったのに」とこぼしました。弟王子は無事に回復し、山はもう必要なくなりました。王さまはハヌマーンに、山を元の場所へ返すよう言いつけます。

ところが山を元の場所まで運ぶのは、あまりに遠い道のり。もともと面倒くさがりなハヌマーンは、えいやっと力まかせに山を放り投げてしまいました。
山は空中でくるりと上下逆さまになり、今の場所に落ち着きました。もとの山頂だった部分が下になり、切り取られた中腹部分が新しい頂になったことから、この山は「山が下になった」という意味の「プノン・クラオム」と呼ばれるようになったということです。薬の木チョン・クロン・スワは、今もこの山に自生しているといわれています。
おしまい
【解説】
物語に登場する猿の将軍ハヌマーンは、ヒンドゥー教でおなじみの神さまです。カンボジアの王族はもともとインドから渡ってきたとされ、昔ばなしにもインドの神々や伝承がしばしば登場します。ちなみにこのハヌマーン、中国の『西遊記』に登場する孫悟空のモデルになったとも言われています。
地図やガイドブックでは「プノン・クロム」と表記されることが多いこの山ですが、伝統的な発音に近づけて、私たちの絵本では「プノンクラオム」と表記しています。山の向こうには、海のように大きなトンレサップ湖が広がっています。